テスラ Model Sの体験

深セン見学会でお知り合いになれたshaoさんが主催するTESLA TEST DRIVE for GEEK(他の方のブログもこちら)に参加させていただき、半自動運転機能を持つテスラModel Sに、高須さん、okkakiiさんと共に乗り、運転もさせていただきました。

テスラという社名からニコラ・テスラを連想し、相当なぶっ飛びようを想像していましたが、乗っみた感覚としては初代プリウスよりも自然な操作感で、中央の巨大iPadもどきのような操作パネルが目を引くほかは、意外と普通の高級車に見えました。
また、静粛性や後部座席の心地よさならばトヨタの高級車の方が完成度高いとも思います。しかし、テスラへの印象はこの後どんどん書き換わりました。

 

急速充電スタンド

まず、お台場未来館の隣りにあるテスラ専用急速充電スタンドに向かい、30分ほど充電しました。充電操作は非常に簡単で、昔のアメリカのスタンドの給油機を連想させつつ未来感十分なデザインのスタンドのホースを緑に光る給電口に挿すだけです。説明も音も操作も不要です。そのプラグも直径3cm程度で、120kWのケーブルとしては最軽量の取り回しです。
充電の費用は車本体の代金に含まれているそうで、他に何も操作できるものはありません。でも、どの車にどれだけ充電したのかはきちんと把握できているそうです。この時は、見た目と充電スタンドへの配電の太さに驚きましたが、それ以上の感想はありませんでした。

しかしその後、高速道路のサービスエリアにある日本製の充電スタンドに驚かされました。多分、東電NEC製のスタンドを見たのですが、テスラのカッコよさとは全く違うもっさりとした箱でした。ここで逆にテスラがなぜスタンドの給油機に似せたのか分かりました。
まあ、試作で社会実験のつもりだろうから仕方ないねと思って近づくと、液晶画面とタッチパネルが付いている上、説明書きの紙がペタペタ貼られています。ただ充電するだけのために、なぜこんなに注意書きが?とBADUIという語が頭をよぎります。直径8cmもあろうかという巨大コネクタに対応するため、テスラは変換ケーブルを用意しています。持ち上げるのも一苦労のコネクタにケーブルを介してテスラに繋ぎ、決済用の謎のフェリカカードをかざし、いよいよ充電が始まるかと思いきや、車が壊れていると宣うのです。しかもshaoさんによると、昔はこの状況で課金もされていたそうです。後ほど別の場所でも試しましたが、車のせいにはしなかったもののやはり充電できませんでした。日産がリーフのために自社でスタンドを整備するわけがわかりました。EVの普及が進まないわけです。

充電の間に、高須さんが持ってこられたNinebotという小型のセグウェイに乗せて頂きました。セグウェイ電通大に居る時に遊ばせていただいたのですが、その時の感想は「スキーと左右の重心移動の感覚が似ていてショートターンができる」でした。小さいほうが若干難しいのですが、Ninebotのスマフォアプリに従って練習すると3分くらいで乗れるようになります、すぐにはスキー感覚は得られなかったのですが、最後にはスキーの感覚が再現でき、膝と足首だけを使った極小刻みなターンになることが分かりました。

半自動運転

そんなことをしているとshaoさんのスマフォには充電終了の通知がとっくに来ていて、いよいよ運転させていただきました。早速電気の急加速を試すと、数秒で制限速度まで加速します。それもガソリン車のようなエンジン全開の頑張りというか苦しさは全く無く、涼しい顔での急加速です。
首都高の合流ではその威力が発揮されます。加速しすぎて前との車間に気を使うほどでしたが、そこがまたよく出来ていて、アクセルの角度の変化に応じて加速だけでなく減速もするという、峠道をセカンドで吹かす時のようなやたらエンジンブレーキがよく効く挙動が標準です。普通のオートマのような設定もあり、中央のiPadもどきでリアルタイムに変更できるのですが、テスラの加速にぴったりなのはデフォルトの峠道モードでした。

首都高の合分流が一段落するといよいよ自動運転です。ハンドルの横にはウィンカーとは別にクルーズコントロール用のスティックが付いていて、パッシングをするように手前に引くとオートクルーズ、さらにダブルクリックすると自動運転に入ります。速度は上下で設定です。自動運転は基本的には画像で車線を読み取り、車線の真ん中を走りながら、周囲の車の動きを見ながら速度=車間を自動調整します。普段のアクセルとハンドルの操作を自動化してくれるわけです。

全自動ではないので自動運転を監視し必要なときに介入しないとならないのですが、そのUIがまた秀逸です。スピードメーターの下にあるカーナビ兼自動運転モニタに認識状況が自然に示されます。白線が読み取りにくい、バイクが認識できた等の様子が伝わってくるので、安心して様子を見つつ必要なときに介入できます。HUDでないのは残念ですが、当時の法令のためでしょうか。

ハンドルは当然バイラテラルで、自動運転中は勝手に動くハンドルを握って自動運転の意図を力で感じ取ることが人間の役割です。そのまま少しだけ力を加えるハンドルを回せば、すぐに自動運転が解除されます。この辺の操作系の設計思想はクルーズコントロールの拡張だと思えば当たり前ですが、完成度が高いと思いました。
また、車線変更もウィンカーを出すと周りの様子を見ながら自動で行ってくれます。これはなかなか高度だと思いますが、非常に的確な運転で安心して任せられました。

私の危なっかしい運転を忍耐強く許してくださったshaoさんのおかげで、自動運転の限界をかなり試すこともできました。まずカーブの曲率に応じた速度制御は自動ではやってくれません。ずっと先の曲率の変化を読むことはまだできないので、思い切って切り捨てたのだと思います。白線が見えない場合も素直に警告音と共に手動に戻ります。でも意外としぶとく、片側が見えていればなんとかなるため、三郷の料金所では一番右車線のETCゲートを完全無操作で通過できました。

監視業務が残るなら自動化意味なしと思われるかもしれませんが、ドライブの楽しみは残して、一番面倒な混雑時の車間制御や車線の中央を走るなどの単純で辛い作業を肩代わりしてくれるのは嬉しいものです。混雑時、渋滞時の運転が本当に楽になります。
いつでも無操作で通常モードに戻せますし、自動運転に戻すのもダブルクリック1回なので自然で、運転の喜びが損なわれません。
監視業務も、最初はこちらが挙動を理解していないためには気を使いますが、慣れてくるとどんどん楽になります。

テスラが実現したことの意味について

上記のとおり、十分欲しくなる完成度の半自動運転機能ですが、これが購入時にはゼロ、レバーにも機能がなかったというのだから驚きです。その状態で買うshaoさんもすごいですが、その状態で売れることと、あとから自動運転機能を付けられることを見きってまずハードを売り、ソフトのアップデートを続けるという決断をしたと思われるテスラのCEOのイーロン・マスクという人は一体どういう人なのだろうかと思いました。
充電スタンドのことから考えても、テスラはEV利用の体験全体を、実際に何が起こるか全て考えた上で優先順位が高くすぐできることから全部やっていると思います。まずはEVの加速性能と環境性能がもたらす気持ちの良さから始め、未来の自動車といえばみなが思い描く自動運転を後から付加する。スマフォのようにアップデートされる車というのも、目的のための単なる手段だという気がしてきます。まず理想形をゼロから考えて、現時点からスタートしてそこに到達するための道筋を描き、その実現に向かって全力で模索を続けているのだと。

世界で最初に自動ハンドルを実現する、それも既に走っている車にある日機能を追加するという方法で。どれだけ不透明な中で進めたのか想像できないし、運が良かったのかもしれませんが、出来る限りの情報収集と各国政府の動かし方を研究したのではないでしょうか。技術よりずっと難しいと思われる社会の未来予測もやってのけ、エネルギー問題の解決という夢に向かって突き進んでいるのでしょう。日本製EV充電スタンドの状況とのコントラストはあまりにも強く、頭がクラクラしてしまいます。

イーロン・マスクが目指すエネルギーの夢は、映画トゥモローランドのような1960年代の夢にも見えます。科学技術が人類の諸問題を解決して人々を幸せにしてくれるとてばなしに信じていた、大きな物語が健在だった頃にだけ有効だった、来なかった未来を追う夢だと思っていました。人々の望みが細分化した現在、そのような夢を追うことは難しく、資本主義と民主主義が求める個人の幸福の追求とは相容れない夢だとさえ思っていました。テスラは、そんな悲観的な私の考えを上書きしてくれた気がします。

テスラの悪そうなデザインは、このメンバーだけが行くことができる秘密の未来都市の夢と重なります。テスラはトゥモローランドへのバッジなわけです。未来館横にある何の変哲もないTime24ビルの地下駐車場にひっそりとスーパーチャージャーが並んでいる光景も、パレスホテルのバレーサービスもこの文脈にピッタリです。現時点で普及に至っているのは利用体験だけですが、テスラは充電のための家庭用ソーラーパネル、電力グリッドの負担を減らす蓄電池と、エネルギー問題解決の夢を実際に進める事業を進めています。体験から実体、思想までを含んだ事業と、それを支持し購入する人々によって、資本主義と民主主義の下で未来への扉が開かれようとしています。

現在テスラは、モデル3の予約殺到対応、モデルSの販売減、初の自動運転事故と、相変わらず多くの挑戦を余儀なくされていますが、エネルギー問題の解決という使命をもって全力で突き進む姿とそれと一体になれることの気持ちよさは、他の何にも代えられない価値を持つと信じたいです。